冊子の崩壊を招かないよう気を付けて読んでみると、結構面白い。巻頭言は「日本一の植物園」と題し、本田正次氏が書いている。高名な植物学者であり、奥付から見て、当時の協会の会長であると思われる。
論旨は、“富士山の自然を守り、日本一の山をして、日本一の国立自然植物園とすべし”というものである。意外なことに、当時を含めて、かつては、ケーブルカーを建設しようとか、自治体財政を救うため高山植物帯の天然記念物指定を解除して森林伐採をしようとか、富士山の自然に手をつけようと虎視眈々の勢力があったらしい。
これに危機感を抱いた本田氏が牽制の一文をしたためたもののようである。幸い、自然保護論が勝り、今に至っているわけだが、富士山にトンネルを穿ってケーブルカーを敷設し、登山客の便を図り、観光業の振興を図ろうとする商業主義が実際に富士山を脅かしていたとは、知らなかった。(尾瀬が原もダムに呑み込まれそうになったが命拾いした。)それでなくとも、大沢崩れが富士山の御神体を削りつつある。こちらは自然現象だから諦めがつく。
この巻頭言でひとつ気になることがある。“我が国には未だ国立植物園が無い”と仰るのだ。奥付には、発行所 東京大学理学部附属植物園内 日本植物園協会 とある。とすると、本田氏は、国立大学の組織内の植物園などは「国立植物園」ではないとのお考えなのだ。想像するに、独立の組織体としての国立の植物園を持つべきだとのご主張のようである。
ご意見以来80年の今日、そのような国立植物園はあるのだろうか。要否はともかくとして。

